「ヨガの王道」ともいわれるラージャヨガ。深い分析瞑想を通し、自分の魂の存在、本質に気付くことで、悟りの境地を目指す伝統的なヨガの1つです。
本記事では、ラージャヨガとは何か、その特徴、ハタヨガとの違いと、ラージャヨガのやり方についてご紹介します。
ラージャヨガとは?
ラージャヨガの「ラージャ」は「王様」という意味を持ちますが、人で例えると最も重要なコアの部分、魂を指します。「ヨガ」は「繋ぐ」という意味を持ち、人間の根本、魂と繋がるヨガがラージャヨガです。
ヨガ哲学では、魂の本質は、肉体や空間にさえも影響されない永遠の存在(真理)、と考えられており、この魂の存在に気が付くことで、悟りの境地、宇宙意識と一体となる感覚を、体験できるといわれています。
ラージャヨガの特徴
ラージャヨガは、サンヤマと呼ばれる深い分析瞑想を主な行法とするため、一般的に普及しているエクササイズ要素の強いヨガとは、やり方が全く異なります。座を整え、心を静め、自分の内側にひたすら集中するのが、ラージャヨガ最大の特徴です。
ラージャヨガのゴールとは
ヨガの実践方法を説く教典、ヨガスートラ*の第1章2節に「ヨガとは心の作用を止滅すること」と示されています。忙しく動きまわる心を静め、自分の内にある穏やかで普遍的な存在に気が付くことで、固定観念が取り外され、ヨガの最終的なゴール「永遠で本質的な幸福」を感じることができるといいます。
ヨガには様々な種類があり、行法は異なりますがゴールは一緒です。ラージャヨガでは、自分の内側に集中し、魂と繋がることで、このゴールへ向かうのです。
*ヨガスートラ:紀元前200年〜400年頃、ヨガ哲学の始祖、聖者パタンジャリによって、ヨガの実践方法が説かれたヨガ教典
ラージャヨガとハタヨガの違い
ラージャヨガは瞑想を主軸とした静的なヨガ、ハタヨガは身体の動きを主軸とした動的なヨガ、と区別することができます。日本のヨガスタジオにおいて、一般的に普及しているハタヨガのクラスでも、瞑想の時間をとることが多くありますが、本格的なラージャヨガのクラスと比較すると、瞑想にかける時間の配分が大きく変わってくるでしょう。
ラージャヨガとハタヨガの位置づけ
ハタヨガの教典、ハタヨガプラディピカの中で、「ハタヨガとは深遠なるラージャヨガに至る階梯である」と説かれているように、基本的にはラージャヨガの準備として考案されたのが、ハタヨガです。
深い瞑想を行うためには、安定して快適な姿勢と、穏やかな精神を保たなければなりません。そのために、ハタヨガで体を動かし、呼吸法を使って精神と肉体のバランスを整え、ラージャヨガの領域である、瞑想に集中できる状態を整えます。
ラージャヨガとハタヨガのアーサナ
ラージャヨガとハタヨガでは、アーサナの意味合いが異なります。ハタヨガでは、アーサナを「ヨガのポーズ」ととらえることが多く、様々なポーズをとることで精神と肉体を整えていきます。
一方、ラージャヨガにおけるアーサナは、主に「座法」という意味です。安定して快適に、瞑想に集中できる座り方を指し、ハタヨガのような動きはありません。
ラージャヨガのやり方
ラージャヨガの行法は瞑想ですが、目を閉じ静かに座るだけで、瞑想に入ることができる人はほぼいないでしょう。日常生活で意識を変え、ハタヨガで心身を整え、集中と瞑想で心をコントロールする。
このように段階を踏んで瞑想に入ることで、だれでも悟りの境地に至ることができる、とヨガスートラは教えます。この具体的な方法は「ヨガ八支則」と呼ばれ、ラージャヨガの行法となる、ダーラナ、ディアナ、サマディを含む8つのステップのことを指します。
ヨガ八支則
- ヤマ:日常生活で避けるべき5つのこと
- アヒムサ・・思考・言葉・行動で自分や人を傷つけない
- サッティア・・思考と言葉は一貫性を持ち、うそをつかない
- アスティア・・もの・時間など人のものを盗まない
- ブラフマチャリヤ・・欲に負け、快楽にふけらない
- アパリグラハ・・必要以上に貪らない
- ニヤマ:日常生活ですべき5つのこと
- シャウチャ・・思考・身体・環境を清らかに保つ
- サントーシャ・・必要最低限のものに満足する
- タパス・・苦難に対し、客観的な理解を持って耐える修練
- スワディヤーヤ・・聖典の勉強
- イーシュワラ・プラニダーナ・・神への献身
- アーサナ:瞑想に集中するための、快適で安定した座法の練習
- プラーナ・ヤーマ:瞑想に思考を保つための、一定のリズムを保った呼吸の統制
- プラチャハーラ:音、臭い、視界など外部から受ける感覚を、自分の内側に引き戻す練習
- ダーラナ:瞑想の対象に集中する修練
- ディアナ:集中を継続する状態
- サマディ:無意識下で起こる悟りの状態
瞑想に入る準備
まずは意識の変化を目指しましょう。ヨガ八支則最初の2つ「ヤマ、ニヤマ」は、日常生活の中で避けるべきことと、すべきことを指します。この2つは最も基本的な鍛錬、人と自分に対する向き合い方が説かれていて、教えに沿った生活を送ることにより、瞑想で雑念となりえる、後悔や後ろめたい気持ちを芽生えさせない効果もあります。
次は「アーサナ、プラーナ・ヤーマ、プラチャハーラ」。身体、呼吸、感覚の制御ですが、ここで登場するのが身体を動かすハタヨガです。厳密にはヤマ・ニヤマも含め、5つのステップを「ハタヨガ」といいますが、ヨガマットの上で行うハタヨガでは、主にアーサナ(ポーズ)とプラーナ・ヤーマ(呼吸法)で、身体・呼吸・心を整えていきます。
瞑想の対象に集中する ダーラナ
ここからがラージャヨガのステップになります。まずは、集中する対象を決めます。それは、心の中に描いた何か、心地よい音楽、呼吸など、どんなものでもOKです。集中の対象以外の思考が流れてきても、その考えには付き合わず、対象に集中する練習を繰り返しましょう。
瞑想とは、ただ無心になることではなく、余分な考えを手放すことです。まずは考えが浮かんだことを認識し、認めてあげましょう。そして、客観的な意識をもって、その考えを手放し、集中する対象に戻っていきます。
集中を保つ瞑想 ディアナ
ダーラナを継続し、集中する対象だけに意識を置き続けることをディアナと呼び、この状態が瞑想です。ディアナが深まると、集中していた対象が消え去り、自分の中には、ただ集中だけがある、という状態になります。
このダーラナとディアナは、行ったり来たりを繰り返すかもしれません。ダーラナに戻ったから悪いということではなく、その状態を把握し、焦らずに、ダーラナを継続する練習を重ねましょう。
瞑想に没しきった、悟りの境地 サマディ
ディアナの状態が続くと、無意識下での悟りの境地、サマディに至ります。ディアナで3つの要素に分かれていた自分、考え、集中する対象でさえも、区別のないものだと気付くでしょう。
また、自分と世界のすべては、1つの根源に繋がっている、という真理を理解することができるといいます。サマディでは心の作用が止滅し、本当の自分、魂の存在を知り得るため、内なる本質的な幸福に気が付くことができる。これが、ラージャヨガを含む、あらゆるヨガの最終的なゴールです。
まとめ
瞑想を行法とする伝統的なラージャヨガ。その方法は合理的で、ヨガ八支則のステップを踏むことで、確実にヨガのゴールに近づくことができます。
ヨガの聖典、ヨガ哲学の学びを深め、ラージャヨガを生活に取り入れることで、自分や他人、社会との関わり方も、良い方向に変わっていくでしょう。
東京都を中心に活動するIHTA認定ヨガインストラクター。会社員としての経験を持ち、自身の健康を意識することからヨガを始める。身体だけでなく、心も健康にするヨガの魅力を知り、この魅力を広く伝えたいという思いからヨガインストラクターに転身。マインドを明るくするような朝ヨガ・リフレッシュ効果の高いフロー感のあるヨガを得意とする。